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進化せよ。ここがガラパゴス島だ!

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シャープがGALAPAGOSタブレット(10.8型と5.5型)の自社販売を9月で終了すると発表した。最速4週間で撤退したHPのように、この事業そのものからの撤退を表明したわけではなく、イーアクセスが販売する7型は継続するというので、これを撤退と受け取る必要は無い。タブレット市場は、日本でも海外でも、これから離陸期を迎えるものだし、シャープのような会社がこの重要な市場から撤退してよい理由は見当たらない。ガラパゴスは「環境」に適応し、進化できなければガラパゴスではない。もちろん適応は1年や2年で出来るものではないのだ。

GALAPAGOS7つの教訓

GALAPAGOSタブレットについて、現時点で筆者が言いうることは以下である。

第1に、タブレットは専用読書デバイスを代替するものではない。在来書籍を読むデバイスとしては重すぎ、高すぎる。雑誌やマンガ、ムック、拡張型のE-Bookなどには向いているが、現在のところタブレット向きのコンテンツはデータ的に重く、価格は高く、供給も多くはない。GALAPAGOSはコンテンツ市場とのミスマッチと戦わねばならなかった。iPadもこの分野では成功していない。コンテンツで儲かっていないのは同じだ。

第2に、以上の背景がありながら「電子書籍」端末としては準備不足のまま出発したことがGALAPAGOSの躓きだった。出版業界の全面支援を期待したと思われるが、それが出来る業界ならソニーやパナソニックも苦労はしなかった。あるいは「官民」あげて国産プラットフォームを支援する環境が出来ることに期待したのかもしれないが、それを期待できる状況ではないし、仮に出来たとしても、かえって「毒饅頭」になりかねなかったと思う。国産プラットフォームは、最初から「おててつないで」では生まれない。

第3に、タブレット自体は静的プラットフォームではなく、「クラウド+デバイス」で成立する半分オープンな生態系の一部であるべきものだ。シャープはGALAPAGOSを完成品と考えて、デビューさせたのだろうが、クラウドのほうは漠然としたままであった。ユーザーにとっての価値が見えなければ生態系も育たない。放っておいてもモノから生態系が育つ時代ではない。GALAPAGOSがAndroid Market依存しない判断をしたのは別に間違いでないが、GALAPAGOSクラウドはまだ詰め切れていない。

第4に、タブレット・ビジネスは、企業の戦略的事業として成立する。GALAPAGOSはシャープ自身の事業エコシステムにおける位置づけが(少なくとも外からは)不明な孤島として登場した。例えばシャープには電子辞書がある。これは特定コンテンツ/専用フォーマット/専用デバイスという閉鎖系環境で成立させた日本的E-Bookだが、これを統合するビジョンを持つならGALAPAGOS生態系にも説得力が生まれるだろう。ソニーにも共通することだが、事業部の壁を壊せない限り、タブレットで成功する確率は限りなく低くなる。

第5に、流通の問題だ。量販店に頼らず、消費者とのコンタクトを重視して直販を採用したこと自体は正しい。B2Cの関係を創らなければ、家電メーカーとしての将来はないかもしれない。とはいえ、直販とサービス体制の構築は企業全体として取組むべき大事業で、GALAPAGOSだけで機能させるのは不可能に近い。アマゾンのビジネスは、ロジスティクスを中心とした「サービス」とそれを最適化する「ソフト」を軸に成立している。タブレット事業には不可欠なものだ。

第6に、ユーザーが期待するコンテンツの問題。出版社自身の進化に期待しても1ミリも前に進まない。彼らはE-Bookの売り方を知らない。本の多くはマーケティングで生まれたものではないし、読者とそのニーズが知られているわけでもない。シャープが成功体験を持っている電子辞書は、辞書・事典類をパッケージにして手が出る値段で出したから成立した。コンテンツのない「電子辞書」デバイスでは売れない。紙の8割で売られる広辞苑電子版を買うために、誰が空の電子辞書を買うだろうか。

最後に、GALAPAGOSがユーザーに約束する価値の問題。それが他にない読書体験の提供であるなら、徹底してユーザーの立場に立たなければならない。出版業界に遠慮し、配慮していては画期的な「企画」は生まれない。電子辞書のように、ユーザーが期待するものを実現するために出版社を( もちろん理屈よりはお金で)説得する剛腕がなければ価値は提供できないのだ。ユーザーの信頼、ユーザーとの永続的関係はそこから生まれる。足らないのはコンテンツではなく、旧弊を乗り越える知恵である。

XMDFの不幸:バザールでもカテドラルでもなく

ちょうど1年前、筆者は「XMDF:さびしい標準」という記事を書いた。累計PVが2万を超え、現在もアクセスが絶えない不思議な記事だが、結局XMDFはGALAPAGOSの推進力となるどころか、むしろ足枷になっている。XMDFは悪い標準ではないが、利用に制約があっては発展できないからだ。XMDFツールはいまだに自由に誰でもダウンロードして使えるようにはなっていない。やろうと思えば出来るのだが、「どんどん作って下さい」という姿勢ではないから、たとえばフリーのデザイナーや編集者などが手を出しにくいのが問題だ。標準もひとつのエコシステムだ。選択可能なツール、多種多様なユーティリティ、テンプレート、ユーザー・フォーラムがあって成立する。バザール方式のEPUBはそれが自然に育つように出来ている。XMDFはバザールでもカテドラルでもない。無償であっても「一見さんお断り」のような印象を与えては、意欲ある人はEPUBになびくだろう。

市場ではフォーマット自体に価値はなく、ただそれがサポートするコンテンツの質と量、変換可能性と拡張性だけに意味がある。XMDFはGALAPAGOSに多くのコンテンツをもたらさなかった。事実上、高めの値付けをする出版社の「有償コンテンツ専用フォーマット」となってしまったからだ。しかし、E-Bookは多数の無償コンテンツをその生態系に含む環境であって、XMDFは閉鎖系では発展せず、インターネット上のXHTML+CSS (つまりEPUB)に包囲されてしまう。アマゾンは、PDFやEPUBを直接呑み込める自社フォーマットを維持することで、開放性と閉鎖性のバランスをとっている。XMDFの将来があるとすれば、同様の方向しかないだろうが、閉鎖性の罠に自ら陥るようでは危うい。XMDFとGALAPAGOSが心中するようではユーザーも困る。

これからEPUBとPDFというオープン・フォーマットのコンテンツが大量に出てくる。GALAPAGOSはそれらを吸収してその生態系の一部として取り入れるようでないと、島は飢餓状態が続く。今後のタブレット・アプリの主流は、iOSでもAndroidでもなく、HTML5とその他のML (たとえばMathML)を標準とし、様々な「エンジン」がそのダイナミックな機能をドライブする形になる可能性が強い。その意味で、シャープはGALAPAGOS用のWebブラウザの開発に力を入れる必要があるし、そこでXMDFをサポートするのも悪くないだろう。あるいは(かなり重くなるが)Wolfram AlphaやCDF (Computable Document Format)をサポートする強力なダイナミック・タブレットに発展させるのも面白い。

ともかく、タブレットはこれからのものだ。撤退などあり得ない。イソップ(「ここが、ロードス島だ、さあここで飛べ」)ではないが、筆者はこう言いたい。進化せよ。ここがガラパゴス島だ!
タブレット事業の戦略的意味とE-Bookのマーケティングについては『EBook2.0 Magazine』のほうで述べたいと思う。 (鎌田、2011-09-19)


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